水を飲むまでの4日間、しっぽを振るまでの2年 ― 繁殖の現場から来た「はな」

シェアWan!

この体験談は、HOGOINU LANDの体験談募集フォーム「シェアWan」を通じて、飯島さんからお寄せいただいたものです。

HOGOINU-DATA
犬種:イタリアングレーハウンド
保護現場:ブリーダー廃棄現場(繁殖引退)
当時の年齢:推定6歳(獣医師の見立てではさらに2〜3歳上)

「自分に何もできない」ことが、嫌になった

飯島さんが愛犬・はな(イタリアングレーハウンド)と出会ったのは、お台場で開かれた譲渡会でした。

きっかけは、インスタグラムでフォローしていた保護団体の投稿。大阪でサイトハウンドを中心に保護活動をしている団体に、10頭近いイタグレがひどい状態で保護された、という報せでした。

「自分が何も出来ない事がとても嫌になり」——飯島さんはそう振り返ります。娘さんも同じ気持ちでした。今できるのは寄付くらい。だったら、まず譲渡会に行こう。二人で決めて、近くで開かれる会を探しました。

自宅にはすでにイタグレが2頭。保護犬を迎えるという発想は、そのときはまったくなかったといいます。

「皆さん、“無理”と言って帰られて」

会場にいたのは、表情も乏しく、ガタガタと震える小さなイタグレでした。イタグレを飼っているからこそ、寒さがわかる。「寒いよね、ごめんね」と声をかけながら、飯島さんと娘さんは何度もブランケットをかけ直し、撫でていたそうです。

保護団体の方が教えてくれました。朝から10人ほどがこの子を見に来たけれど、皆「無理」と言って帰ってしまった、と。理由を尋ねると、歯が歯石だらけで4本ほどしか残っていないこと、避妊もこれからであること、そして年を取っていること。

「それを聞いて私も娘も涙が止まらず」。保護犬を迎えようとその子を目当てに来た人たちの中に、その子を助けようという気持ちがない人もいる——飯島さんは、そのことにとても複雑な気持ちになった、と書いています。

はなは、群馬のブリーダー廃棄現場から、状態の重い子を優先して救い出された第一陣の1頭でした。

即決しなかった母と、カリカリと訴えたはな

娘さんはすぐ「連れて帰りたい」と言いました。けれど飯島さんは即答しませんでした。先住犬が2頭いて相性もわからない、3頭は簡単に飼える頭数ではない。「なぜならちゃんとした命だからです。命をあるものを育てるのは責任がいるからです」。

いったん帰宅し、娘さんが父親にプレゼン。「飼わないけど見に行く」と言われ、3人で再びお台場へ向かいました。1時間近く話を聞くあいだ、はなは娘さんの膝ですっかり眠っていました。

ところが「では一旦帰ります」と切り出した瞬間、それまで大人しかったはなが動きました。夫の体をカリカリ、次に娘さん、最後に飯島さんのところに来てカリカリ。

「もう私もその行動にやられてしまいました」

水を飲んだのは、4日目だった

家に着いたはなは、連れて帰ってとアピールしたのが嘘のように、ひとつのベッドから動きませんでした。表情は乏しいまま、水も飲まず、ごはんも食べず、トイレもしない。

翌日すぐに病院へ。口腔内の状態が悪く、そのまま手術を受けることになりました。真っ黒になった歯を2本抜歯、残る2本は犬歯のため抜くと顎が折れるとのことで歯石除去のみ。歯茎には何箇所も穴が開いていたといいます。避妊手術も同時に行いました。

一日入院した間も、はなは水を一滴も飲まず、点滴を受けました。帰宅後も飲みません。はなが初めて自分から水を飲んだのは、迎えてから4日目のこと。「皆んなで喜びました」。

トイレも簡単ではありませんでした。先住犬は3日で覚えたそうですが、はなは何年ものあいだ、出産のときしかケージの外に出してもらえない暮らしをしてきた犬です。トイレという概念そのものがない。

飯島さんは昼間は20分間隔、夜中は3時間に一度起きて、はなをトイレに連れて行きました。完璧になるまでにかかった時間は、約3か月。「その間何度も心折れそうになりましたが、はなが余生を快適に暮らせるにはと考え、怒らずあせらず向き合いました」

「4年かかった」と教えてくれた、散歩仲間の言葉

心を開いてくれたのは、娘さんにだけでした。飯島さんが触ろうとするとジャンプして逃げる、触ればびくびくする。「こんなに怒らず優しくしか接していないのに」と、かなり悩んだといいます。

転機は、散歩で出会った人との立ち話でした。連れていたチワワも保護犬で、5歳まで繁殖引退犬だったという話。向こうから近づいてくる、おやつを食べる、おもちゃで遊ぶ——そんなごく普通のことができるようになるまで、4年かかったと聞かされました。

そのとき、飯島さんがはなと暮らし始めて1年。「あー、はなの闇はそんなに簡単に取れるものじゃないんだな」。そこからは、はなのペースでゆっくり慣れてもらおうと考えるようになりました。

帰宅するとしっぽをブリブリ振ってくれるようになり、体も触らせてくれるようになったのは、2年を過ぎた頃だったそうです。

「違うからこそ愛おしい」

人間の都合で、ただただ生きていただけのはな。

ふわふわのベッドで幸せそうに眠る姿を見ると、うちに来て幸せだといいなぁと思う、と飯島さんは書いています。先住犬と遊ぶ姿。キョトン顔。声帯を切られていて初めはほとんど声が出なかったのに、今では「中々の声」が出るようになったこと。迎えた当時はガリガリだった体が、今では獣医師から「痩せないとダメ」と注意されるまでになったこと。

「先住犬のようにパピーから飼っているのとは全く違うけれど、違うからこそ愛おしい。そんな毎日です」

水を飲むまでに4日、トイレに3か月、しっぽを振ってもらえるまでに2年。その一つひとつが、はなにとっての回復のスピードでした。待つ側にとっては長い時間です。けれど、その長さのぶんだけ、今の毎日が確かなものになっているのだと思います。


あなたの体験談も募集しています。里親さん・預かりボランティアとしての気づきや、日々の暮らしのことを、ぜひ聞かせてください。

▶ 保護犬との暮らし体験談を投稿する

コメント